大棟山美術博物館

十日町市の指定文化財

大棟山美術博物館の概要

新潟県十日町市松之山にある大棟山(だいとうざん)美術博物館は、江戸時代の豪農・村山家の旧宅をそのまま生かした小さな博物館です。村山家は約700年にわたりこの地で造り酒屋と庄屋を務めた名家で、現在公開されている主屋は宝暦5年(1755)の火災後に再建され、昭和まで改築を重ねてきたものです。1989年に31代当主が旧宅と庭園を一般公開し、大棟山美術博物館と名付けられました。建物と表門は十日町市の指定文化財に登録されており、三和土や箱階段、欄間など雪国建築ならではの意匠が楽しめます。

館内には村山家の歴史を伝える古文書や生活道具、書画・陶芸品のほか、前当主の叔父にあたる作家・坂口安吾(1906〜1955年)の遺品や著書が多数展示されています。安吾は日本の“無頼派”作家として知られ、彼の叔母と姉が村山家に嫁いだ縁で松之山を頻繁に訪れ、ここを舞台にした小説も執筆しました。

冬期間は積雪のため休館となり、例年春〜秋にかけて開館します。地震による被害の改修工事のため2024年は7月から11月までの会館でしたが、2025年は5月3日から開館しています。最新の情報は公式サイトをご覧ください。

ケヤキ一枚板の廊下を歩きながら書院座敷や茶の間を見学し、展示室で坂口安吾の資料に触れると、当時の暮らしぶりが身近に感じられます。

坂口安吾ゆかりの地

「大棟山美術博物館」の豪雪地帯に建つ豪農住宅ならではの重厚な造りは、近代和風建築の粋を集めたものとして高く評価されています。主屋の見どころはケヤキの一枚板で作られた廊下、高い天井が特徴の書院座敷、和室の襖絵、箱階段、そしてかつて酒造りを行っていた名残を感じさせる土間など、贅沢な材と巧みな意匠が随所に見られます。

表門は高麗門形式と呼ばれるスタイルで、これは城門にも用いられる珍しいものです。切妻屋根と太いケヤキ材が印象的なこの表門は、大正9年(1920)に建てられた比較的新しいものですが、上質な材料を用いて作られており、蟇股(かえるまた)や肘木といった彫刻が施され、豪華な飾り金具も見どころです。

そしてなんといっても、本博物館の目玉は戦後文学を代表する作家・坂口安吾の資料展示です。村山家に安吾の叔母と姉が嫁いでいた縁で、この地を心の故郷としてたびたび訪れました。彼の滞在中に使用した部屋は「安吾の部屋」として公開されており、松之山を舞台にした小説『黒谷村』や推理小説『不連続殺人事件』などの初版本や書簡のほか、愛用の品が展示されています。村山家から松之山温泉へと向かう山道は「安吾の散歩道」と呼ばれ、途中には作中にも登場する巨岩「安吾岩」が残っています。

 庭園では春から初夏にかけて新緑、秋には紅葉が美しく、季節ごとの風情を感じられます。庭園内には「柳清水」と呼ばれる湧水があり、昔は村山家の造り酒屋がこの水を仕込み水として使っていました。この柳清水は新潟県の名水にも選ばれており、博物館入口に取水場所が整備され、来館者も飲むことができます。2018年には55年ぶりにこのまろやかな名水を用いた日本酒「越の露」が復刻され、かつて安吾が好んだ銘酒であることから、ラベルには安吾の直筆書が採用されました。

大棟山美術博物館の見どころ

大﨑庸平

展示物

大﨑庸平

表門

大﨑庸平

展示物

大﨑庸平

入り口

楽しみ方・おすすめの過ごし方

松之山の杉木立の間にある苔むした山道を登っていくと、大棟山美術博物館が見えてきます。まずはその歴史を感じる館内をゆっくりと巡ってみましょう。

敷地内の柳清水で湧き水を汲んだら、裏山に続く「安吾の散歩道」を歩いてみましょう。山道は20〜30分ほどで、途中には安吾が腰掛けたという安吾岩や文学碑があります。道を下り切ると松之山温泉に出ます。温泉街には塩分濃度が高い源泉掛け流しの共同浴場や旅館が点在し、雪国の風情漂う街並みが続きます。

毎年5月の第3土曜日には、大棟山美術博物館を会場に坂口安吾まつりが開催されており、朗読家による安吾作品の朗読舞台など、安吾作品にちなんだ催しが行われます。

十日町市の松之山エリアはアートと自然の宝庫です。大棟山美術博物館から車で10分ほどの場所には、光のアーティストとして知られるジェームズ・タレルが手がけた宿泊施設「光の館」があり、天井の開閉式天窓から移りゆく空の色を眺める特別な滞在が体験できます。また、松之山を含む越後妻有地域では3年に一度「大地の芸術祭」が開催され、地域に点在する現代アート作品を巡ることができます。近くにはブナの美林が広がる「美人林」や棚田の絶景スポットもあり、季節によって異なる表情が楽しめるので、旅程に余裕を持って周辺を巡ってみてください。


ぜひ、その日は松之山温泉で宿泊し、ゆったりとした時間を過ごしましょう。歴史ある温泉宿のみならず、近年オープンしたユニークな宿もあります。例えば、新潟の選りすぐりの地酒と、旬の食材を掛け合わせた本格的なペアリングコースを堪能できる“泊まれるレストラン”「醸す森」は、お酒好きにはたまらない宿となっています。

基本情報

スポット名:大棟山美術博物館

営業時間・定休日:開館時間 9:00~16:00(最終入館)

料金:入館料 大人600円、小・中・高校生300円、団体(20人以上)100円引き、未就学児は無料

アクセス

住所:〒942‑1406 新潟県十日町市松之山1222番地

  • 電車:北越急行ほくほく線「まつだい駅」から東頸バス松之山温泉行きで約20分、バス停「松之山支所」下車、徒歩約2分。
  • 車:関越自動車道塩沢石打ICから国道353号経由で約45分、新潟市方面からは越後川口IC経由で約60分。松之山支所から「松之山」交差点を直進し約2分。

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Hotel 醸す森

日本有数の豪雪地帯である松之山の雄大な自然に囲まれており、冬には数メートルもの積雪に及ぶこともあるんだとか。都会の喧騒を離れ、四季折々に表情を変える森の静寂を五感で味わいながら過ごす時間は、まさに日常を忘れる特別なひとときとなります。

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