こんにちは。私は現在、台湾に住む大学生です。日本各地をめぐる旅を通じて、人と土地、そしてその土地に根ざす暮らしの姿にふれることを楽しみにしています。

今回滞在したのは、福岡県うきは市・筑後川温泉の「桑之屋」。館内に入った瞬間、どこか昭和の空気が漂っていて、ちょっとだけ時間が巻き戻ったような気分になります。広い宴会場に卓球スペース、日帰りでも人気という家族風呂に、大浴場と露天風呂まで。温泉宿としての設備がしっかり揃っていて、満たされ方が価格を超えてきます。
温泉も食事も空気感も、「全部そろってる」じゃなくて、ここでしか味わえない形でそろってる。
だから、ここでしかない体験でした。
しかも温泉は、宿主の言葉どおり「とろとろ」で、肌がすべすべになる感覚がちゃんとある。過去にはなんと美人の湯全国4位を受賞し、温泉には特に自信のある宿。夕食は鮎の串焼きや豚しゃぶ、天ぷら、創作和食まで並んで、「二食付きでこの内容?」と素直に驚きました。温泉目当てでも、料理目当てでも、どっちでも来たくなる。そんな一泊でした。
桑之屋
詳細を見る【宿の魅力】昭和の空気にほっとする|宴会場と卓球、そして“とろ湯”

桑之屋は、まず建物に歴史を感じます。どこか昭和の時代を匂わせる館内の雰囲気があって、歩いているだけでタイムスリップした気分になります。

館内には自由に使える卓球スペースもあります。さらに日帰り客にも人気な家族風呂、大浴場、露天風呂が揃っていて、「温泉を楽しむための宿」としての土台がしっかりしている印象でした。露天風呂と家族風呂は新たにつくったと聞き、今のニーズにも合わせて整えているのが伝わってきます。
宿主のお話を聞いて、温泉が生まれた背景も知ることができました。以前この一帯は桑畑で、雪が積もらず、地面が暖かいのではないか?という話になり、宿主のお爺さん世代が温泉を掘り当てたそうです。開業は約60年。今の場所に移ってきてから53年とのこと。こういう積み重ねが、館内の空気にそのまま出ている気がしました。
うきは市・筑後川温泉のエリア自体も、鮎が獲れたり、フルーツが一年中楽しめる地域だそうです。宿の食事で感じた“地元の味”が、土地の特徴として自然につながりました。
【チェックイン】館内に響くカラオケが、なぜか落ち着く

私が行った当日は、年配の方がちょうど宴会をしていました。遠くから昭和のカラオケが聞こえてきて、それが妙にあたたかい。
にぎやかというより、懐かしい感じです。旅先なのに、なぜかほっとしてしまう。こういう空気があるだけで、チェックイン直後の緊張がほどけていきました。
こうして地元の人が集まるのは、それだけこの温泉が昔から信頼されている場所なんだと思います。
【お部屋】外観から一転、清潔感のある和洋室|縁側でひと息

お部屋は和洋室と和室の2種類で、縁側にはちょっとした休憩スペースがありました。窓際に座ってひと息つける場所があるだけで、滞在の落ち着き方が変わります。
レトロな外観はどこか懐かしい雰囲気ですが、客室は現代的に整えられていて清潔感も十分。水回りまできちんと手入れされていて、気持ちよく過ごせました。

私が泊まったのはベッド付きの和洋室で、普段お布団で寝慣れていない方や外国の方でも安心して泊まれるつくり。実際、とても快適でした。
窓の外に筑後川が見えるだけで、部屋時間がぐっと贅沢になります。
【夕食】黄綬褒章の料理人が手がける|鮎・豚しゃぶ・創作和食、宿の夜がごちそうになる

夕食は、鮎の串焼き、豚のしゃぶしゃぶ、天ぷら盛り合わせ、和食の創作料理。二食付きのお値段とは思えないほどコスパが良く、料理のクオリティに驚きました。
「ここの料理を求めて来られる方がいる」という話には、強く共感します。味は地元の食材の新鮮さと美味しさを感じるもので、素朴なのに、ちゃんと贅沢でした。
宿の方いわく、料理を目的に来られる方もいらっしゃるそうです。こだわりは味付けで、素朴だけれど味付けや出汁の味に好評をいただくとのこと。地元のブランド豚や地元の野菜をふんだんに使用し、品数も喜ばれているそうです。
そして料理長の岩永さんは、令和6年に黄綬褒章を受賞。黄綬褒章は、ものづくりや専門技術などの分野で長年腕を磨き、社会に貢献してきた人に国から贈られる章で、いわば“技を極めた職人への勲章”です。宿としても大変誇りにしていると聞きました。後で玄関でその証書を見たとき、「あの夕食なら納得」と思ってしまったのも正直なところです。
【温泉】化粧水みたいな“とろ湯”|露天が沁みる夜、眠りまで整う

夕食後に温泉へ。宿主の話の通り、温泉に入るとすぐに湯のとろとろ感が分かり、お肌がすべすべになる感覚がありました。美肌効果を実感します。ちょうど外の気温が下がっていたこともあり、露天風呂は最高でした。ここへ温泉のために来る日帰り客の気持ちが、すごくわかります。
伺った話によると、温泉は45度で、鮮度の良い温泉を楽しめるそうです。アルカリ温泉で、化粧水のようなしっとりさ、すべすべした感覚が特徴。保温効果も持続し、体の芯から温まるとのことです。質感を求めて来られる方が多く、温泉ファンが集ってくるような温泉——その言葉どおりだと思いました。
そんな温泉に浸かった夜はすぐに眠りにつけ、質の良い睡眠を取ることができました。まさにリトリートです。
【朝食】派手じゃない、でもちょうどいい|温泉湯豆腐が主役

朝食は決して派手ではありません。でもバランスが良く、朝にはちょうど良い量感とメニューでした。
なかでも湯豆腐。ぷるんとした食感で絶品で、ぺろっと平らげて宿を後にしました。
ちなみに、温泉を使った湯豆腐は「しっとりして好評」だそうです。朝食で感じた満足感が、宿の“定番の強み”として腑に落ちました。
【まとめ】手形と黄綬褒章が語るもの|知られすぎてほしくない宿

チェックアウト時に驚いた点が二つあります。玄関で左手を見ると、大きな手形と、額縁に飾られた黄綬褒章の証書。大きな手形はお相撲さんの手形で、以前来られたそうです。宿の知名度や魅力を、そのまま見える形で伝えているようでした。
もうひとつの黄綬褒章の証書は、ここの料理そのものを褒め称えると言っても過言ではない証明のひとつ。しっかりと実績を残すこの宿は、あまり多くの人には知られたくないような——そんな気持ちになる宿でした。
特に印象に残ったのが、宿主が3代目で、接客の心構えを強く意識しているというお話でした。旅館業は宿側にとって毎日でも、お客にとっては一年に一度の特別な一日かもしれない。その思いで接客しているとのこと。
国内(九州内)のリピーターが多く、温泉や食事を求めて来られる方が多い。コスパも良い。毎年大阪からわざわざ来る方がいて、食事を目当てに来られているという声もあったと聞きました。
昭和の空気にほっとして、温泉で体が整って、食事で満たされる。桑之屋は、そんな宿でした。