会津・芦ノ牧温泉にある大川荘は、渓谷を望む景観や浮舞台での三味線演奏など、印象的な滞在体験で知られる宿です。今回は大川荘の女将に、宿の魅力や会津への想い、そしてこの場所で届けたいおもてなしについて伺いました。お話を聞くほどに見えてきたのは、目に見える華やかさだけではない、この宿ならではのあたたかさでした。

女将の渡邉靖子さん。兵庫県姫路市出身。
3人の男の子の母親としても、大川荘の若女将としても奔走する。明るく爽やかな性格と、若女将としての凜とした品格が魅力。

会津芦ノ牧温泉・大川荘。
会津の渓谷美を眺めながら、絶景露天風呂と地元食材の料理を楽しめる温泉宿。
会津の宿で、人を迎える立場になるまで
ーーまずは、女将自身のことから伺ってもいいですか。もともと会津のご出身ではないんですよね。
女将:はい、私は兵庫県姫路市の出身です。前職は看護師で、東京の病院で働いていました。そこで主人と出会って、主人の父が経営していた大川荘の後継者になり、私も女将としてこちらに来ました。結婚して会津に引っ越してからすぐに3人続けて子供が産まれたこともあって、本格的に女将として動き始めるのはこれから少しずつ、というところです。

ーーそういった状況の中で、会津という土地に入っていく感覚はどのようなものでしたか。
女将:やっぱり最初は知り合いもいない場所でしたし、不安もありました。でも会津には、「会津の三泣き」という言葉があるんです。最初は少し距離を感じることがあっても、懐に入るとすごく良くしてくださって、最後は別れる時に寂しくて泣く、という。実際に暮らしてみて、本当にその通りだな、と思っています。今では、地元よりも会津の方が、仲良くさせていただいている方が多いかもしれません。
四季の渓谷美を、宿にいながら味わう

ーー女将が、この宿に来た方にまず味わってほしいものを挙げるとしたら、何になりますか。
女将:やはり渓谷の景色ですね。当館の客室はすべて渓谷を眺められるお部屋になっていて、春や夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季折々本当に風景がガラリと変わるんです。
ーー実際にいるだけで、季節の移り変わりを強く感じられる場所ですよね。
女将:そうですね。本当に季節によってまったく表情が違うので、その時期ならではの景色を楽しんで頂けたらと思っています。ロビーの窓も大きめに作られているので、ひとつの切り取った絵のように感じていただけたらうれしいです。

地域の風景を映した、やさしい温泉
ーー温泉についても伺いたいです。大川荘の温泉の特徴はどんなところでしょうか。
女将:当館の泉質はアルカリ性単純泉で、別名・美肌の湯とも呼ばれています。保湿効果もあって、湯上がりがしっとりするので、小さなお子さまから幅広い年代の方にご利用いただけるのかなと思っています。匂いもほとんどないですし、やわらかいお湯なので、気軽に入っていただきやすいと思います。

ーーサウナもありますよね。お部屋にサウナってなかなか珍しいなと思いました。
女将:はい、今サウナが流行っていますし、お客様から「部屋にサウナがほしい」というご要望をいただいたことで、作ってみようとなりまして、新たにサウナ付きのお部屋ができました。お部屋の中でゆっくり自分のペースで味わっていただきたいです。
ーー木の温もりが落ち着きますね。棚田を思わせる露天風呂も印象的でした。あれはどういう発想から生まれたのでしょうか。
女将:芦ノ牧の集落が棚田のような景色になっているそうで、そこを見て会長がイメージしたそうです。上の段からお湯が流れていて、下に行くごとに温度が下がるようになっているので、お好きな温度で楽しんでいただけます。

ーー地域の風景が、そのまま温泉の体験にもつながっているんですね。
女将:そうですね。やっぱり温泉旅館なので、温泉に入って「やっと着いたな」「旅の疲れを癒やそうかな」と感じていただけたらうれしいです。
会津らしさと特別感、そのどちらも味わえる食事

ーー食事についても、とてもこだわりを感じました。大事にされていることは何でしょうか。
女将:地元のものをなるべく使用して、会津牛や馬刺しなど、会津らしさを楽しんでいただけるようにしています。その一方で、ただ郷土料理をそのままお出しするだけではなく、目でも楽しめるような、少し日常から離れたお食事を提供したいと思っています。

ーー“旅館に来たからこそ味わえる食事“という感じですね。
女将:はい。普段なかなか召し上がらないようなスタイルや、旅館に来たからこそ楽しめるようなお料理を提供したいと思っています。また、福島には美味しい日本酒もたくさんありますので、季節によって厳選した日本酒をご用意しています。お食事と一緒に存分にお楽しみいただきたいです。

ひとりひとりに寄り添う、あたたかなもてなし
ーー最近は海外からのお客様も多いそうですね。
女将:そうですね。タイや台湾、欧米など、多くの地域からいらっしゃっています。景色や日本の伝統的なお食事などを満喫していただいてます。

ーー食事の面では、アレルギーやヴィーガン対応についても工夫されているとか。
女将:はい。海外のお客様もそうですし、アレルギーをお持ちのお客様も増えているので、事前にご相談いただければ、なるべくお客様のご事情に沿ったお料理を提供できるよう、料理長とも相談しております。
ーーかなり細かい対応が必要になることもありますよね。
女将:そうなんです。お肉は大丈夫でもお出汁はダメという方もいらっしゃいますし、人によって本当にさまざまなので、なるべく細かく伺うようにしています。すべてのご要望に対応するのは難しいこともありますが、できる限りのことはしたいと考えております。

ーー接客についても、皆さんのあたたかさが印象的でした。
女将:それぞれのスタッフが、自分たちのプライドとプロ意識を持って、自ら進んでおもてなしをしたいとい気持ちの表れなのかなと思っています。例えば外国のお客様に対して、日本語のメニューしかなかった時に、自分でメニューを翻訳してお渡ししたこともありました。お客様にとって何が必要なのかを、それぞれが考えて行動しているのではないかなと思います。
浮舞台と三味線がつくる、忘れがたいひととき

ーー大川荘と言えば、やはり浮舞台と三味線の印象が強いです。
女将:三味線は以前からずっと行っておりまして、昔は三味線がお好きなご年配の方が耳を傾けてくださることが多かったのですが、今では本当に多くのお客様に楽しんでいただいています。

ーー海外のお客様や、小さなお子さまにも人気がありそうです。
女将:はい。お子さまが鬼滅の刃のコスプレをして写真を撮ってくださったり、海外の方にも楽しんでいただいたりしています。あの空間で、世界観ごと味わっていただけるのはありがたいと思っています。
ーー2時間の生演奏を毎日続けていらっしゃるのもすごいですよね
女将:メインで演奏されている方は、会津の民謡もされている先生で、本当にすばらしい演奏です。2時間ずっと正座で演奏されていて、やはりプロだなと感じます。

大川荘をきっかけに、会津をもっと好きになってほしい
ーーお話を伺っていると、大川荘だけでなく会津全体を楽しんでほしい、という思いを強く感じます。
女将:ええ、大川荘を目的に来てくださる方も多いと思うのですが、せっかく会津まで足を運んでいただくのであれば、大内宿や飯盛山、鶴ヶ城など、観光も楽しんでいただきたいです。食事も含めて、地域全体を堪能していただけたらと思っています。

ーー宿に泊まることが、地域への入り口にもなっているんですね。
女将:そう思います。実際、私の友人も東京から来たときは、旅館だけでなく観光地を巡ったり、何を食べようかと話したりしています。そうやって、大川荘をきっかけに会津全体に興味が広がっていくのは、とてもうれしいことだなと思います。
自然を感じ、心までほどける滞在を

ーー最後に、これから大川荘を訪れる方へメッセージをお願いします。
女将:大川荘に来て、自然を体でも心でも味わっていただきたいです。綺麗な空気を吸いながら、あたたかい温泉に入り、おいしいお食事も満喫していってもらえたら、こんなにうれしいことはありません。
ーーお話を伺って、景色や温泉だけではなく、この宿に流れているあたたかさまで伝わってきました。ありがとうございました。
女将:ありがとうございました。
