インタビュー

【福島・星乃井】「また来たい」と思ってもらえる宿であるために。まごころの宿・星乃井が大切にしていること。

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福島県・南会津に広がる自然豊かな温泉地。湯野上温泉の「まごころの宿・星乃井」は、名物のじゃがいも料理や無料のナイトツアー、そしてスタッフ1人1人のあたたかな接客で、多くのリピーターに愛されている宿です。今回お話を伺ったのは、星乃井を支えるご主人。宿のはじまりから、料理やツアーへのこだわり、そして“まごころの宿”という名前に込められた思いまで、じっくり聞きました。

星乃井のご主人。ゲストからも「お父さん」と呼ばれ親しまれている。

人気のナイトツアーもお父さん自ら案内する。

名物じゃがいも料理とあたたかいおもてなしを味わえる、こぢんまりとした温泉宿。

大内宿から10分という立地も魅力

星乃井の始まりは、先代女将の「やってみたい」という強い思いから

ーーまず、星乃井が始まったきっかけを教えてください。

ご主人:うちの先代の女将、母が始めたのがきっかけです。今からちょうど50年くらい前ですね。その頃、湯野上温泉で一般家庭でも温泉を引けるようになったんです。それで、「せっかく温泉を引いたんだから、何か商売をやりたい」と母が言い出して。最初は民宿から始まりました。

ーーもともと宿をやっていたわけではなかったんですか。

ご主人:そうなんです。うちはもともと造り酒屋だったので、宿の経験なんてなかったんですよ。だから親族みんなに反対されたらしいです。でも母がその反対を押し切って、「どうしてもやらせてくれ」と。それが星乃井の始まりですね。

ーー“まごころの宿”という名前には、どんな意味が込められているのでしょうか。

ご主人:直接母から聞いたわけではないんですけど、昔から母のポリシーだったんじゃないかなと思います。とにかくお客様に喜んでもらいたい、そしてまた来ていただきたい。その思いが、“まごころ”という言葉に繋がったんじゃないかと思いますね。

料理と同じくらい誇りに思う、スタッフのおもてなし

ーー星乃井の魅力として、まず何を挙げたいですか。

ご主人:お客様には料理をすごく褒めていただいてるんですけど、それと同じくらい自慢したいのが、うちのスタッフですね。どのスタッフが女将なのかわからないくらい、パートさんもアルバイトさんも親身になって、お客様に接してくれているんです。

ーーそれはすごいことですね。

ご主人:これも、母がつくってきた星乃井の流れなんだと思うんです。それをみんなが自然に受け継いでくれている。料理が美味しいという宿はたくさんあると思うんですけど、それに加えて、スタッフの思いやりを実感してもらえるのがうちの強みかなと思っています。

ーースタッフの皆さんの接客があたたかい理由は、どこにあると思いますか。

ご主人:特別に社員教育をしているわけではないんです。やっぱり母からの流れなんでしょうね。今はもう一戦から外れていますけど、母の姿を見て私たちは成長してきましたし、パートさんたちにもそれが伝わっているんだと思います。

ーー人柄を見て採用されることもあるんですか。

ご主人:ありますね。お店なんかで「この子、雰囲気がいいな」と思って声をかけて、来てもらった子もいます。結局、接客って技術だけじゃなくて、その人の雰囲気や人柄も大きいと思うんです。

名物の無料ツアーは、感動を分けたくて始まった

ーー星乃井と言えば、ナイトツアーを始めとする無料ツアーも有名ですよね。始めたきっかけは何だったんですか。

ご主人:最初は蛍でした。知り合いから「蛍がいっぱいいる場所があるけど知ってるかい」と言われて見に行ったら、思っていた以上に飛んでいて、すごく感動したんです。こんな田舎に住んでいる自分がこれだけ感動するなら、お客様に見せたらもっと喜んでもらえるんじゃないかと思って、次の日の夜から始めました。

ーー次の日から始めるのは、行動力がすごいですね。そこから通年のツアーになっていったんですね。

ご主人:はい、最初は蛍の時期だけだったんですが、そのツアーに参加したお客様が大内宿の夜の雰囲気をとても喜んでくださって。「蛍のいない時期でも、あの夜の大内宿を友達に見せたい」と言ってくださったことがきっかけで、蛍がいなくても行う通年のツアーになりました。

ーー毎日のようにツアーを続ける原動力は何なのでしょうか。

ご主人:自分が感動したものをお客様にも味わってほしい、その思いだけですね。大内宿のナイトツアーも、朝のそば畑も、鶴ヶ城の夜桜も、まず自分で行ってみて、「わ、これいいな」と思ったもの何です。人数が何人でもやりますし、20年近く続けてこられたのも、その思いがあるからですね。自分の手間はタダだと思ってるんですよ。お客様が喜んでくださるなら、それでいいんです。

星乃井名物・じゃがいも料理が生まれた理由

ーー食事についても伺いたいです。星乃井と言えば“じゃがいも”の印象が強いですが、どうしてじゃがいもが名物になったんですか。

ご主人:これも母の料理から始まっています。民宿を始めたばかりのとき、飾らない母の料理をお客様がすごく喜んでくださったんです。最初はじゃがいもの煮っころがしのようなものから始まったと思うんですが、それがすごく好評だったんです。

ーーそこから今の形になっていったんですね。

ご主人:はい。いろんなじゃがいもを試していく中で、北海道のメークインに出会って、「せっかくこんなに大きいものがあるなら、1個ごろっと出してみよう」となりました。他では、これだけ大きなメークインを丸ごと出す料理って、なかなかないと思うんです。見た目のインパクトもありますし、箸を入れた時にほろっと崩れる柔らかさも喜ばれているんでしょうね。

ーーリピーターの方が「じゃがいもを食べに来た」とおっしゃるのも納得です。

ご主人:ありがとうございます。特にご年配のお客様にすごく気に入っていただいていて、「じゃがいも食べに来ました」と言ってくださる方も多いですね。時代が変わっても、これだけは変えずにやってきました。

ーーじゃがいも以外のお料理も、工夫を重ねてきた印象があります。

ご主人:うちは本当にリピーターさん・常連さんが多くて、中には毎月来てくださる方もいるんです。そうなると、まったく同じ料理ばかりでは申し訳ないので、1品でも2品でも変えよう、という気持ちから、少しずつバリエーションが増えていきました。ただ、バリエーションは増えても、メインのじゃがいもは変えません。2泊しても2泊とも出しますし、それ以上でもたぶん毎晩出すと思いますよ。

湯野上温泉は、日常の中でも使えるやさしい温泉

ーー温泉についても教えてください。湯野上温泉の特徴はどんなところでしょうか。

ご主人:何と言っても、湯量の豊富さと成分ですね。一般家庭まで温泉を引けて、朝から晩までふんだんに使えて、飲むことまでできる。床暖房や雪消しにも使える。そういう温泉地って、あまりないんじゃないですかね。無味無臭・無色で、ほとんど中性に近い弱アルカリ性の、やさしいお湯なんです。もし硫黄が強かったり鉄分が多かったりしたら、一般家庭で毎日使うのは難しいと思うんですが、湯野上温泉はそうじゃない。だから地域の暮らしに馴染んでいるんだと思います。

ーー日常の使いやすさが大きな魅力なんですね。飲むことができるのも面白いですね。

ご主人:実は、客室のポットのお湯も源泉そのままなんですよ。ナイトツアーの時にその話をすると、お客様が「じゃあ帰ったらもう1回お茶飲もうかな」なんておっしゃることもありますね。

ーー宿以外の魅力も伺ってもいいですか。

ご主人:やっぱり何と言っても、大内宿が代表的な観光地ですね。年間100万人以上のお客様が来てくださっていると聞いています。ただ、それ以外にも本当におすすめしたい観光スポットがたくさんあるんです。その魅力を、もっといろんな人に届けたいなという思いでやっています。

ーー宿だけでなく、下郷町や湯野上温泉全体を広めたいという思いも強いんですね。

ご主人:はい、湯野上温泉はまだまだ知名度が低いんです。大内宿があるから県外のお客様に来てもらえている部分は大きいですが、これからはそれに加えて、各宿が特徴を持って、お客様の満足度を高めていくことが大事なんじゃないかと思っています。

リピーターが多い理由は、「また来てもらいたい」という想い

ーー星乃井はリピーターが7〜8割とも聞きます。多くの方がまた来たくなる理由を、どう感じていますか。

ご主人:正直、自分でもはっきりとはわからないんですけど、うちに泊まって「良かったな」と思っていただけている、その表れなんじゃないかなと思います。スタッフみんなが、「もう1回来てもらいたい」という想いをすごく大事にしているんです。

ーーその気持ちが、日々の接客に自然と出ているんですね。

ご主人:そうだと思います。リピーターさんが来てくださると本当に嬉しいですし、それがやりがいにもなります。お客様も、その空気を感じ取ってくださってるのかなと思いますね。

派手さより、まごころを求める人に泊まってほしい宿

ーー最後に、これから星乃井を訪れる方にメッセージをお願いします。

ご主人:うちはものすごく高級な素材を使っているわけではありません。地のものを使った料理だったり、飾らないおもてなしだったり、そういうものを大事にしている宿です。でも、その料理にどれだけ思いが込められているか。そこを感じ取っていただけるお客様に来ていただけたらうれしいですね。

じゃがいも料理の素朴なおいしさ。ご主人自ら案内する無料ツアーで出会う、下郷の夜の美しさ。そして、誰が女将かわからないほど自然ににじむ、スタッフのまごころ。星乃井の魅力は、豪華さや派手さだけでは語れません。

「また来てほしい」「感動を分けたい」という思いが、料理にも接客にも、宿で過ごす時間全体にも宿っている。そんなあたたかさこそが、多くのリピーターに愛され続ける理由なのだと感じました。