福岡県うきは市の筑後川温泉に位置する「桑之屋」は、約60年の歴史を持つ温泉旅館です。雪が積もらないほど暖かい地面から掘り当てたという自家源泉は、空気に触れることなく湯船に注がれ、全国4位に選ばれるほどの良質な「美肌の湯」として愛されています。さらに、黄綬褒章を受章した料理長による、地元の食材を活かした素朴で味わい深い料理が、多くのリピーターを惹きつけています。
今回は、コロナ禍という逆境の中で社長に就任し、宿の新たな舵取りを行う3代目の近藤さんに、極上の温泉や料理の魅力、そしてお客様への熱い想いについて伺いました。
福島県南会津郡下郷町にある湯野上温泉は、渓谷沿いにひらけた、どこか隠れ里のような趣を感じる温泉地です。そんな土地で、長い歴史を受け継ぎながら、温泉と料理、そしてこの地域にしかない時間を届け続けているのが、ここ藤龍館。今回は、藤龍館の歴史や食へのこだわり、接客で大切にしていること、そしてこの地で宿を続ける思いについて伺いました。

(左)筆者と(右)近藤社長
桑畑から湧き出た、全国4位に輝く「鮮度抜群」の美肌の湯

ーーまず、桑之屋さんの歴史について教えてください。
近藤社長: 元々この筑後川温泉の一帯は桑畑だったんです。雪が降ってもすぐ溶けるほど地面が暖かかったため、「ひょっとしたら温泉があるのではないか」と私のおじいちゃんの世代が掘り当てたのが始まりです。開業して約60年、今の場所に移ってからは約53年になります。
ーー温泉にはどのような特徴があるのでしょうか?
近藤社長: 一番の自慢は温泉の「鮮度」です。うちでは約45度のお湯が源泉かけ流しで出ており、一切空気に触れることなく湯船までお届けしています。アルカリ性の泉質で、入ると「化粧水に入っているみたい」と言われるほど、体にまとわりつくようなしっとり感がありますし、上がった後も体の芯から温まります。温泉コンテストでは全国で4位、昨年は九州・沖縄エリアで2位に選ばれたこともあり、温泉ファンの方からも高評価をいただいております。

ーーお部屋からの眺望も人気だとお聞きしました。
近藤社長: 客室は筑後川を眺めるお部屋と、耳納連山を眺めるお部屋があり、特に川側をご希望されてご予約されるお客様が結構いらっしゃいますね。
黄綬褒章を受章した料理長が腕を振るう、地元食材の素朴な味わい

ーーお料理を楽しみに来られるお客様も多いそうですね。こだわりを教えていただけますか。
近藤社長: 昨年、当館の料理長が黄綬褒章を授与されました。提供しているお料理は決して派手なものではありませんが、茶碗蒸しや前菜一つをとっても出汁の味付けが良いと、お召し上がりになったお客様から大変好評をいただいています。 食材にもこだわっており、地元のブランド豚である「耳納いーっとん」や、道の駅などで手に入るうきはの新鮮な野菜を使用しています。朝食も品数が多くてよかったと喜ばれていますね。

ーーお客様の反応で、特に印象に残っていることはありますか?
近藤社長: 毎年1回、大阪からツアーでお越しになるお客様がいらっしゃるのですが、「ここの食事が食べたいからいつもこのツアーに参加している」と言ってくださるんです。それを聞くと、来年もまた喜んでもらえるお食事を提供しなければと強く思います。お昼にお食事と温泉を楽しんで大阪へ帰られるのですが、毎年来ていただけるのは本当にありがたいですね。
逆境のコロナ禍で選んだ「団体客を大切にする」という異例の決断

ーー近藤さんは3代目として、コロナ禍という大変な時期に代替わりされたのですよね。
近藤社長: はい、私が社長になってまだ2年も経っていないのですが、代替わりのタイミングがちょうどコロナ禍で、うちの宿にとっても大きなピンチでした。団体のお客様が激減し、他の宿が個人のお客様向けにシフトしていく中で、当館ではあえて「団体のお客様も大切にする」という逆の決断をしました。
ーーそれは思い切った決断ですね。
近藤社長: うきは市内で一番大きな食事会場のキャパシティがあったこともあり、皆様が大勢で来られるような宿作りを維持しました。そのおかげで、今ではうきは市内の団体のお客様に当館を一番多く使っていただいておりますし、個人のお客様向けの設備投資も並行して行ったことで、両方のお客様が増え、軌道に乗ってきています。

お客様の特別な1日に寄り添い、世界へうきはの温泉を発信する
ーー宿を運営する上で、先代から受け継いでいる想いはありますか。
近藤社長: 私たちにとっては365日続く毎日でも、お客様にとっては「1年に1回の特別な旅行」として、この桑之屋を楽しみに来られているかもしれません。お客様にとっての特別な1日だという思いで接客にあたるという心構えは、先代からしっかりと引き継いでいます。

ーー最後に、これからお越しになる方へメッセージをお願いします。
近藤社長: 当館は九州圏内からのリピーターのお客様が多いですが、コロナ前に比べて海外からのお客様も3倍ほどに増えてきています。Googleマップの英語の口コミでも、温泉について高い評価をいただいているんですよ。日本のお客様はもちろん、本当に世界中の色々な方々に当館の温泉を楽しんでいただきたいですね。

桑畑の暖かい地面から湧き出た、奇跡のような筑後川温泉のお湯。そして、気取らないけれど間違いのない美味しさを提供する料理の数々。 「桑之屋」には、お客様の特別な1日を大切にする3代目の熱い思いと、長年受け継がれてきた温かいおもてなしの心が根付いていました。コロナ禍という逆境にも負けず、変わるべきものと変わらないものをしっかりと見極めながら進み続けるその姿は、これからも国内外の多くの人々を心身ともに癒し続けることでしょう。
