福岡県うきは市にある筑後川温泉は、日本名水百選に選ばれる清らかな水と、四季折々のフルーツに囲まれた、どこか懐かしく穏やかな情緒を感じる温泉地です。そんな土地で、昭和31年の創業から70年にわたり、唯一無二の泉質と地元の恵みを届け続けているのが「清乃屋」。今回は、三代目の高木社長と次代を担う息子さんに、宿の歴史や“化粧水の湯”へのこだわり、そしてこの地で宿を守り続ける想いについて詳しく伺いました。

年100旅館を訪れ、70以上の施設で女将にインタビューをしています。
好きな地域は福島県の会津地域です。
「地域のまごころが報われる世界を創る」をミッションに旅館と地域観光を盛り上げたいと思っています。地域観光と地域旅館が好きで株式会社Hinotoriを起業しました。前職では株式日本ユニストにて熊野古道の宿「SEN.RETREAT」を立ちあげ集客していました。
宿に関わる前は屋内型テーマパークSMALL WORLDSやアートアクアリウム美術館の立ち上げに参画してマーケティングをしたりとマーケティング畑が長いです。新卒ではPwCコンサルティングに所属しておりました。

(左)息子さん (右)高木社長
地元をこよなく愛するお二人。うきはの料理や温泉の水質などを守りつつ、進化を続けたいと語ってくれました。

筑後川温泉「清乃屋」は、綺麗な水が自慢の温泉やバレルサウナを楽しめる、ただいまが言いたくなる宿です。
桑畑から湧き出た、筑後川温泉のはじまり
ーーまずは、この筑後川温泉エリアの魅力や、宿の歴史について教えてください。
高木社長: うきは市は水が非常に綺麗なところで、果物も四季折々いろいろなものがあります。宿の始まりは私の祖父の代で、昭和30年頃、この辺りは一面の桑畑だったんです。その一箇所でぶくぶくと泡が出ていて、ほのかに温かかったらしくて、「温泉が出るんじゃないか」とボーリングを始めたのがきっかけです。昭和30年の秋にお湯が出て、昭和31年1月1日に創業しました。最初は掘っ立て小屋のような建物から始まったと聞いています。
ーー筑後川温泉の歴史そのものなのですね。今年でちょうど70年目、本当におめでとうございます。

“化粧水のような湯”を守り、進化させる
ーー三代目として受け継いできた中で、大切にされていることは何でしょうか。
高木社長: 変えてはいけないものは、やはりこの温泉の泉質です。昔からずっと「源泉かけ流し」にこだわり続けています。うちの湯はアルカリ性の単純温泉ですが、ペーハー(pH)が8.9ほどあり、かなりの「ぬめり」があるのが特徴です。お客様からは「まるで化粧水に入っているみたい」と大変ご好評いただいています。
ーー 一方で、時代の流れに合わせて新しく取り入れたものもあるそうですね。
高木社長: はい。露天風呂付きの客室に改装したり、バレルサウナを導入したりと、トレンドに合わせて進化させています。屋上にある「天空サウナ」は、見晴らしの良い場所を有効活用しようと作りました。温泉、サウナ、水風呂、外気浴の4つが揃っている場所は珍しいですし、個別に贅沢に使っていただけるのは、清乃屋ならではの魅力だと思っています。

地元の恵みと、女将が運ぶ沖縄の風
ーーお食事や館内の雰囲気についてもこだわりを教えてください。
息子さん: お料理には、地元うきはの「耳納ぶた(耳納いーっとん)」や、豊かな水が育んだフルーツをふんだんに使っています。和食ですので、料理長による華やかで綺麗な盛り付けにも非常に力を入れています。
高木社長: また、私の妻である女将が沖縄出身という縁もあり、館内には沖縄のお菓子や工芸品を置いています。お風呂の石にも、沖縄の「琉球石灰岩」を使っているんですよ。こうした清乃屋らしい特色から、お客様との会話が弾むことも多いですね。

一度外に出たからこそ気づけた、故郷の価値
ーー息子さんは一度都会に出られた後、戻ってこられたそうですね。
息子さん: 若い頃は都会に憧れて外に出たのですが、都会のお風呂の狭さや、普通のお湯の感覚に触れて、初めて実家の温泉のありがたみが分かりました。大人になって戻ってきて、改めてうちの湯に浸かった時、「このぬめりは、やっぱりすごいんだ」と実感したんです。
ーーその気づきが、今のお仕事への情熱に繋がっているのですね。
息子さん: はい。以前は機械系の仕事をしていましたが、今は対人のお仕事にやりがいを感じています。お客様からの「ありがとう」という言葉は、何物にも代えがたい喜びです。今はこれが天職だと思っていますし、「清乃屋」という名前とこの素晴らしい温泉を守り続けていきたいと考えています。

“おかえり”が似合う宿へ
高木社長: ぜひ、この自慢の温泉を体感しに来てください。うきはには白壁通りなどの素敵な観光スポットもたくさんありますので、町全体を楽しんでいただければ嬉しいですね。
息子さん: 私たちは、次に来ていただいた時にも「おかえりなさい」とお迎えできるような温かい宿を目指しています。うきはは「九州のおへそ」とも言われる便利な場所ですので、ここを拠点に九州の様々な魅力を探索していただきたいです。

都会での生活という個人的な体験から始まった気づきは、実家の温泉が持つ真の価値への理解へとつながり、清乃屋という宿を次代へ繋ぐ決意になりました。 時代に合わせた空間設計、うきはの豊かな水に根ざした食、そして“化粧水の湯”と称される源泉そのものの力を活かした温泉体験。それらが重なり、単なる宿泊施設ではなく“土地そのものを体験する場所”として再構築されています。 そこには、70年の記憶を受け継ぎながら、未来の観光のあり方を問い直す静かな挑戦が息づいています。
インタビュアー:大﨑庸平