福岡市内から車で約1時間。筑後川のほとりに位置する原鶴温泉「延命館」は、大正時代から続く歴史ある宿です。今回は、4代目館主の井上さんに、独自の泉質の魅力から料理へのこだわり、そして宿の名前に込められた想いまで詳しくお話を伺いました。

延命館4代目館主の井上さん。
「心と体にご馳走を」をコンセプトに、訪れる方に癒しを与えたいと語ってくださいました。

福岡県朝倉・延命館。
すべての客室から筑後川の景色を楽しむことができ、「命が伸びる温泉」が最大の魅力の宿です。
全国でも珍しい「ダブル美肌の湯」を「ぬる湯」で愉しむ
ーーまずは、ここ原鶴温泉の特徴について教えていただけますか?
井上さん: はい。原鶴温泉は非常に自然豊かなところで、昔からフルーツの名産地として知られています。温泉としては、近年「ダブル美肌の湯」として人気です。アルカリ性単純温泉と硫黄泉という、お肌に良い成分が2種類入っているのが特徴ですね。
ーーその2つが組み合わさっているのは、全国的にも珍しいそうですね。
井上さん: そうなんです。当館ではそのお湯を、あえて「ぬる湯」で提供しています。ゆっくり時間をかけて浸かっていただくことで、体に負担をかけずに健康面でも良い効果が期待できるからです。湯治目的で来られる方も多く、「体が休まる」と喜んでいただいています。

50歳で一念発起した初代の想いを受け継ぐ「延命館」
ーー「延命館」というお名前も非常に印象的ですが、どのような由来があるのでしょうか?
井上さん: 実は、初代は元々お湯掘り職人だったんです。50歳の時に「住み慣れた故郷で温泉を掘り当てたい」と一念発起して始まったのが当館です。「宿を長く続けていきたい」という願いと、「うちのお湯に入っていただいたら命が伸びるよ」という健康への願いを込めて、初代が名付けました。
ーーまさに「命を延ばす宿」なのですね。現在は井上さんが4代目とのことですが、受け継ぐ中での想いをお聞かせください。
井上さん: 先代から続く屋号とおもてなしの心を守り、自然と共存できる環境を大事に引き継いでいくという使命感を持っています。

意外性が喜ばれる「和洋折衷」の料理と、贅沢な「何もない時間」
ーーお料理についても、口コミで非常に評価が高いですよね。
井上さん: ありがとうございます。当館では、和と洋のテイストを織り交ぜたコース料理を提供しています。最近では差別化を図るために、洋風のテイストを多く取り入れています。地元の朝倉やうきはで採れた四季折々の食材を使い、特にデザートにお出しする柿や巨峰などのフルーツは、この土地ならではのものとして一番お喜びいただけます。
ーーお部屋からの景色も素晴らしいですね。
井上さん: 全客室から筑後川をご覧いただけます。 川の流れや鳥のさえずりを感じながら、日頃の忙しさを忘れて「贅沢な何もない時間」を過ごしていただきたいですね。

「ただいま」と言ってもらえる、第二の我が家を目指して
ーー 接客において心がけていることはありますか?
井上さん: コンセプトは「心と体にご馳走を」です。お客様のお時間を邪魔しない、つかず離れずの「ちょうど良い距離感」でのお手伝いを大切にしています。
ーーリピーターの方も多いと伺いました。
井上さん: はい。お客様から「ただいま」と言っていただける時が一番嬉しいですね。当館を「第二の家」のように感じていただけているのかな、と。
ーー 伝統を守る一方で、新しい試みもされていますね。
井上さん: 大事な部分は受け継ぎながら、時代に合わせて変えていくことも必要だと考えています。コロナ禍に設置したドームテントや、コーヒーを片手に景色を楽しめる屋上・談話室、そして私がデザインしたキャラクター「モリオくん」を館内に隠す遊び心など、思い思いに過ごし、記憶と記録に残る宿でありたいと思っています。

故郷に温泉を掘り当てたいという初代の情熱から始まった物語は、95年の時を経て4代目へと受け継がれ、延命館という名の「命を慈しむ場所」として今に息づいています。
筑後川のせせらぎに身を委ねるリバービューの客室、地元の四季を映し出す和洋折衷の食、そして希少な「ダブル美肌の湯」の力を活かした「ぬる湯」の体験。それらが重なり合い、単なる宿泊施設ではなく、訪れる人が本来の健やかさを取り戻すための「第二の我が家」として再定義されています。
そこには、「延命」という名に込められた先代の祈りを守りながら、時代に合わせた心地よさを問い直し続ける、静かな挑戦が息づいているでしょう。

インタビュアー:大﨑庸平
延命館