インタビュー

大地に根差し、新しい伝統を拓く。料理人と建築家が語る「Né」の真髄

新潟県新発田市の広大な田園地帯に誕生したオーベルジュ「Né」。フランス語で「生まれた」を意味するその名の通り、この場所は土地の豊かさを再発見し、未来へとつなぐ拠点です。プロジェクトの核となった総料理長・布施真氏と、建築家・福西健太氏に、その思想を伺いました。

大﨑 庸平

株式会社 Hinotori 代表取締役

大﨑 庸平

地域観光と地域旅館が好きで株式会社Hinotoriを起業しました。以前は株式日本ユニストにて熊野古道の宿「SEN.RETREAT」を立ちあげ集客していました。「地域のまごころが報われる世界を創る」をミッションに旅館と地域観光を盛り上げたいと思っています。以前は屋内型テーマパークSMALL WORLDSやアートアクアリウム美術館の立ち上げに参画してマーケティングをしたりとマーケティング畑が長いです。新卒ではPwCコンサルティングに所属しておりました。

http://hinotori-trip.com/media

Néの料理人・布施真さん。

秋田県出身の布施真さん。地方でしか味わえないことがあることを、食を通して伝えたいとお話ししてくださいました。

新潟県新発田・Né。

料理・建築・空間すべてをこだわり尽くし、新潟の恵みを余すことなく使って新たな価値を生み出しています。1日1組限定の贅沢な体験を過ごすことができます。

料理人・布施真:東京では成し得ない「地方の価値」の再定義

ーー 布施さんは秋田県のご出身ですね。なぜ今、あえてこの地方で新しい挑戦を始めようと思われたのでしょうか。

布施さん: 地方の現状が良くないというのは、日本全国、あるいは世界中の地方が直面している課題です。それを変えていきたいという想いがずっとありました。東京は何でも手に入りますが、「地方でしかできないこと」も確実にあるんです。

ーー「地方でしかできないこと」とは、具体的にどのようなことですか?

布施さん: 食材を目の前にして、生産者の顔が見え、その地域の素材のみで料理を作る。これは多くの料理人が夢見ても、実際にはなかなかできないことです。私は、この土地の食材のみを使い、ない時期は保存の技術を使って戦う道を選びました。

ーー 新潟の冬は食材が乏しいと聞きますが、苦労も多いのでは?

布施さん: 正直、1月や2月に「何もない」ことには驚きました。しかし、雪国の知恵である「保存」や「発酵」を現代的に更新し、食材の時を止め、再起動させることで、ここでしか食べられない一皿が生まれます。

ーー 未利用食材への挑戦も掲げていらっしゃいますね。

布施さん: はい。一番分かりやすい例が「蜂の幼虫」です。今まで廃棄されていたものに、料理の力で利益と新しい価値を生む。その利益を地域へ循環させることで、日本の地方の新しい伝統、そして希望になると信じています。

建築家・福西健太:大地の循環を止めない「大地の延長」としての建築

ーー福西さんが初めてこの敷地を訪れた際、どのようなインスピレーションを受けましたか。

福西さん: 広大な敷地と本間家の屋敷の風格、そして水田。その土地が持つ力に圧倒されました。店名である「Né(生まれた)」から、ここから何かが生まれていく物語を建築で表現したいと強く感じました。

ーー建築における最大の挑戦は、やはり「木の杭」を使った基礎でしょうか。

福西さん: その通りです。土地の水の流れや大地の循環をコンクリートで遮断したくありませんでした。そこで、105本もの木の杭を地中に打ち込む工法を選びました。この規模で木杭を使い、一部を露出させるのは前代未聞のチャレンジでした。

ーー素材へのこだわりも尋常ではありませんね。壁にはここの土が使われていると伺いました。

福西さん: 「大地の延長の建物」にしたいという想いがありました。一番身近な素材である、まさにこの場所に立つ「土」を使い、外壁も内壁も構成しています。自分の手の届く範囲の素材で建築を作ることは、私自身のキャリアにとっても大きな転換点となりました。

食と建築の連携:五感で味わう土地の記憶

ーーお二人の対話を伺っていると、食と建築が同じ哲学で繋がっているように感じます。

福西さん: 布施さんの「手の届く範囲の食材で価値を届ける」という哲学を、私も建築で大切にしました。ゲストの方には、レストランで料理を味わいながら、目の前の土壁や新潟の木で作られた家具に触れてほしい。食と建築が連携し、新潟の豊かな風土を五感でめでる体験こそが、Néの提供する価値だと思います。

布施さん: 建物だけでも料理だけでも完成しません。勇気を持って一歩踏み出した仲間が集まり、共に新潟の新しい伝統を作っていく。ここでの滞在を通じて、土地の美しさと未来への希望を感じていただければ嬉しいですね。

この土地から何かが生まれる物語は、料理人と建築家、そして地元の職人の方々の情熱が重なり合い、オーベルジュNéという一つの形になりました。

105本の木の杭が大地の循環を支え、現地の土で塗られた壁が呼吸する空間設計。地元の素材のみを用い、雪国の知恵である保存と発酵を更新し続ける食の体験。それらが響き合い、単なる宿泊施設ではなく“新潟の風土そのものを五感で味わう場所”として再構築されています。

そこには、古くから受け継がれてきた手仕事の記憶を未来へと手渡し、地方の新しい希望と伝統のあり方を問い直す、静かな挑戦が息づいています。

インタビュアー:大﨑庸平

Né

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