静岡市、旧東海道の宿場町として栄えた「丸子(まりこ)」。とろろ汁の名所としても知られるこの地に、工芸をテーマにした唯一無二の宿「和楽(わらく)」はあります。本物の古民家をリノベーションした空間に身を置き、静岡の伝統工芸に直接触れる体験を通して、現代人が忘れがちな「心の余白」を取り戻す場所。
今回は、宿の運営に情熱を注ぐ支配人の中屋敷結衣さんに、古民家と工芸が織りなす独自の魅力や、静岡の素材を活かした食とスパ、そして宿に込めた想いを詳しく伺いました。

工芸の宿 和楽 支配人 中屋敷 結衣 さん
工芸と過ごす宿泊

ーーまず、和楽さんが誕生した経緯を教えてください。
中屋敷さん: もともとこの場所は食堂で、隣接する別邸は民芸店や子ども食堂としての歴史を持っていました。民芸店のご主人が引退されるタイミングで、弊社が建物を買い取り、リノベーションしたのが始まりです。
ーーお隣には大規模な体験施設「駿府の工房 匠宿」もありますね。
中屋敷さん: はい。匠宿の指定管理を受けて運営していく中で、単なる体験施設だけでなく、地域全体を盛り上げ、工芸をより深く体感していただくための拠点としてこの宿を位置づけました。宿の名前も、かつての民芸店「和楽」から引き継いでいます。
駿河竹千筋細工に囲まれた宿泊

ーー「工芸を体感する宿」として、具体的にどのようなこだわりがありますか。
中屋敷さん: コンセプトは、「本物の古民家に宿泊することを通して、静岡の工芸に触れていただく」ことです。客室には「駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいこ)」の照明や菓子器、お盆などを取り入れています。
ーー単に飾ってあるだけでなく、実際に使うことができるのですね。
中屋敷さん: そうです。工芸品はもともと手間暇をかけて作られるもの。忙しい現代の皆様に、古民家のゆったりした時間の流れの中で工芸と向き合い、ご自身の「余白の時間」を見つけていただきたいと考えています。
サウナやスパによる「現代の快適性」

ーー古民家ならではの趣がある一方で、設備は非常にモダンだと伺いました。
中屋敷さん: 日本家屋には、段差の多さや明かりの届かなさといった「不便さ」がどうしてもあります。しかし、それも魅力の一つ。一方で、宿として快適に過ごしていただくために、最新のサウナや床暖房といった現代的な機能を融合させています。
ーー「お茶スパ」というのも非常に静岡らしいサービスですね。
中屋敷さん: 静岡茶の成分を取り入れたオイルマッサージや、茶の実を使ったハンドマッサージを提供しています。また、移築・再建された「吹風(ふきさら)」という建物のお風呂からは、目の前に広がる里山や茶畑の風景を楽しむことができます。
駿河湾の恵みと丸子の伝統

ーーお食事についても、地域との繋がりを大切にされているそうですね。
中屋敷さん: 夕食は近隣のレストラン「シンプルズ」と提携しています。駿河湾の深海魚など、地の素材をシンプルかつ贅沢に活かしたフレンチを楽しめます。また朝食では、地元の野菜にこだわり、静岡名物のおでんなども添えてご用意しています。
ーーこの地域は「とろろ汁」や「蜂蜜」も有名ですね。
中屋敷さん: はい。丸子といえばとろろ汁の名店が多いですし、丸子茶や美味しい蜂蜜もあります。宿を出て、そうした地域の食文化や匠宿での工芸体験に触れる。丸子の1日を丸ごと楽しんでいただける仕組みを作っています。
工芸を日常へ。唯一無二の宿が繋ぐ未来
ーー最後に、これからお越しになる方へメッセージをお願いします。
中屋敷さん: 伝統工芸は「昔のもの」と思われがちですが、今の日常に取り入れられる素晴らしいものがたくさんあります。ここで工芸と出会い、それを持ち帰って日常に取り入れていただけたら最高に嬉しいです。
ーー中屋さんにとって、和楽はどのような存在ですか。
中屋敷さん: 私自身、職人さんと日々対話する中で、伝統を現代にどう生かすかを常に考えています。テレビのない、少し不便な環境かもしれませんが、だからこそ味わえる「何もしない贅沢」があります。他にはない唯一無二のこの宿で、日常から離れた豊かな時間をお過ごしください。

丸子の静かな空気の中に佇む「和楽」。一歩中へ入れば、洗練された竹細工の陰影と、古材の温もりが迎えてくれます。職人の手仕事に触れ、お茶の香りに癒され、茶畑を眺める。ここでの滞在は、単なる宿泊を超え、私たちの暮らしを豊かに彩る「工芸のある人生」への入り口となるはずです。
工芸の宿 和楽
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