【奈良・山添村】自然のリズムに戻る1日3組の宿。ume,yamazoe宿泊記
奈良県山添村。奈良市街地から少し離れた山あいに、1日3組だけを迎える宿
「ume,yamazoe」があります。
薪で温めるアウトドアサウナ。山添村の食材を中心につくられる料理。夜には星を眺め、朝は山の向こうから昇る太陽で目を覚ます。何か豪華なものが次々に用意されている宿ではありません。
むしろume,yamazoeが掲げているのは、「ちょっと不自由なホテル」。便利さから少し距離を置き、火や風、食事、朝日といった、本来はとても身近だったものをもう一度感じ直すための宿です。
筆者の大﨑が初めてume,yamazoeを訪れたのは2022年。それ以来、何度かこの宿を訪れています。自身で宿泊施設を運営していた時期には、アウトドアサウナづくりの参考に、umeの火起こしワークショップにも参加しました。今回は改めて宿泊し、代表の梅守志歩さんにも直接インタビュー。何度も訪れてきたからこそ感じる、この宿の魅力を紹介します。

ume,yamazoeと
ume,yamazoeは、奈良県山辺郡山添村の集落の高台にある、1日3組限定の宿です。
築100年をゆうに超える、かつて旧波多野村の村長が暮らしていた家を改修し、2020年3月にオープンしました。太い大黒柱や欄間、庭の梅の木など、もともとこの家にあったものを大切に残しています。
コンセプトは「ちょっと不自由なホテル」。山里の自然、この土地で育った食材、地域の人との関係など、山添村では当たり前に存在してきた日常そのものを、宿泊体験として届けています。
その取り組みは外部からも高く評価されています。2020年には併設するume,saunaが「サウナシュラン2020」第10位を受賞。2025年にはJapan Travel Awardsの「Social Impact Category」を受賞しました。障がいや病気のある方とその家族を宿泊へ招く「HAJIMARI」の取り組みと、その活動が全国の宿へ広がっていることなどが評価されています。
さらに2026年には、Forbes JAPAN「Destinations of the Year 2026」の「The 30 Collection」に選出されました。評価されているのは、豪華な設備そのものではありません。豆腐づくりや山菜摘み、しめ飾りづくりといった山里の日常を体験に変え、料理の中心食材を近隣から集め、地域の薪でサウナを焚く。宿だけで完結するのではなく、山添村そのものを旅の目的地にしていることが、ume,yamazoeの大きな特徴です。
筆者自身も2022年の初訪問以来、この宿に何度も戻ってきました。初めて泊まった時は、正直ここまで背景を理解していたわけではありません。ただ、「なんか、この宿はすごくいい」と感じた。何度か訪れ、自分でも宿を運営する側を経験し、今回梅守さんに話を聞いて、当時言葉にできなかった魅力が少しずつ分かってきました。
到着|山添村の高台にある一軒の古民家
山添村の集落を抜け、坂を上っていくとume,yamazoeが現れます。宿があるのは集落の一番上に近い場所。高台に建っているため、建物の前からは山添村の山々を見渡すことができます。
ume,yamazoeになる以前、この建物は旧波多野村の村長の家でした。今回のインタビューで梅守志歩さんに聞いたのですが、初めてこの家を見た時に感じたのは、「景色は最高だけど、ボロボロだな(笑)」だったそうです。
それでも、この場所を選んだ。梅守さんが宿を始めたかったから、というよりも、「自然の中で生きていきたい」という思いが先にあり、そのための仕事として宿があったと話してくれました。
館内に入ると、昔の家が持っていた空気をできるだけ残しながら、宿として必要なものが丁寧に整えられています。新しくつくり込みすぎていない。それが、この土地にずっとあった家に泊まりに来たような感覚につながっています。

客室|朝日を見るために泊まりたい部屋
ume,yamazoeで筆者が特に好きなのが、朝です。初めて宿泊した2022年も、窓の外が少しずつ明るくなっていくのを眺めながら目を覚ましました。
山の向こうから太陽が出て、オレンジ色の光が部屋の中まで入ってきます。大きな観光名所を見るわけでも、何か特別なアクティビティをするわけでもありません。ただ、朝日が昇る。それだけなのですが、ここに泊まると、その当たり前の出来事をきちんと見ることになります。
以前、経営者仲間とumeに宿泊した時のこともよく覚えています。夜遅くまでみんながお酒を飲んでいる中、筆者は先に寝て、翌朝日の出とともに起きてサウナに入りました。その時、スタッフの方から「大﨑さんは、一番良いリズムで生きていますね」と言われました。
今でもかなり好きな言葉です。ume,yamazoeで過ごしていると、人間が決めた時計ではなく、少しだけ自然側の時間に自分を合わせてみようという気持ちになります。

ume,sauna|薪と火から始まるサウナ
ume,yamazoeを象徴する体験の一つが、屋外にあるフィンランド式サウナ「ume,sauna」です。2020年にはサウナシュラン第10位にも選ばれています。
筆者自身もサウナが好きで、過去に宿泊施設でアウトドアサウナを運営していました。そのため、umeのサウナが面白いと感じるのは、単に「熱くて気持ちいいサウナ」だからではありません。ここでは火そのものと向き合っています。
以前、umeの火起こしワークショップに参加したことがあります。使うのは、基本的にマッチと段ボール。薪をどう組むか。どこから風が入ってくるのか。空気の通り道をどうつくるのか。適当に火をつけるのではなく、火がどう燃えるのかを理解しながら育てていきます。
うまく燃えると、不完全燃焼が少なく、驚くほど煙が出ません。宿やサウナを運営する側になった後にこのワークショップを体験して、「火を使う」という一つの行為にも、知らないことがこんなにあるのかと思いました。

薪をたくさん入れればいいわけではない
個人的に、umeのサウナで一番好きな話があります。以前、サウナが大好きなお客さんが来て、もっと熱くしたくて薪を大量に入れてしまったことがあったそうです。
梅守さんは、その時かなり悔しくて、泣いてしまうほどだったといいます。なぜなら薪は、ただそこに置いてある燃料ではないから。
一本の木が山で育ち、切られ、乾燥され、薪になり、ようやくサウナの火になります。umeでは火の状態を見ながら、必要な分だけ薪を足していきます。「熱くしたいからたくさん燃やせばいい」ではなく、一つの薪をできるだけ無駄なく使う。
筆者自身、宿でサウナを運営した経験があるからこそ、この話がとても印象に残っています。サウナというサービスの裏側にも、山や森との関係があります。umeのサウナに入る時は、ぜひそんな背景も少し思い出してみてください。

「ume」という名前|うまれ、めざめる
umeという名前にも意味があります。今回のインタビューで梅守さんは、「う」は生み出す、生まれる、「め」は恵みや芽吹きにつながる音だと話してくれました。また、この宿では「うまれ、めざめる」という言葉も大切にされています。
実は筆者が初めて宿泊した2022年にも、サウナに入りながら「う」と「め」の意味を教えてもらいました。当時は「すごくいい考え方だな」と思ったくらいでした。でも、何度かここに戻ってくるうちに、少し分かってきた気がします。
umeで得るのは、新しい知識や刺激というより、一度忘れていた感覚を思い出すことなのかもしれません。火が暖かいこと。朝日で目が覚めること。お腹が空いたらご飯がおいしいこと。風が気持ちいいこと。とてもシンプルな感覚です。
夕食|山添村の日常を食べる
今回の夕食を担当してくださったのは、木村優季さん。料理の説明を一つひとつ本当に丁寧にしてくださり、筆者が質問すると、食材のこと、調理法、山添村での食べられ方まで優しく教えてくれました。
とても親しみやすいのですが、料理や宿に向き合う姿勢を見ていると、同時に自然と尊敬を覚えてしまう。今回の滞在で、料理そのものと同じくらい、木村さんの人柄が強く記憶に残っています。
宿のことを好きになる時って、結局、その場所にいる人を好きになっていることが多い。今回も改めてそう感じました。
umeの料理は、山添村の旬の食材を中心につくられます。筆者は仕事柄、日本各地の旅館やホテルを訪れ、料理をいただく機会があります。「地元の食材を使う宿」自体は珍しくありません。その中でもumeの料理が印象に残るのは、「なぜこの土地で、この料理を食べるのか」という背景まで一緒に出てくるからです。

前菜|山添村の旬を少しずつ
前菜から、山添村らしい食材が並びます。そうめんかぼちゃのおひたし、タコの三杯酢、豆腐を使ったマスカットの白和え、いちじくとカラスミ、茗荷、マクワウリなど。
特に面白かったのがマクワウリです。現在ではあまり見かけない食材ですが、山添村では昔、子どものお弁当のデザートにも入っていたそうです。
旅行者から見ると珍しい。でも地域の人から見ると懐かしい。umeの料理には、こうした「地域では普通だったもの」が何度も登場します。

お茶の村で食べる素麺
山添村は大和茶の産地です。そしてお茶づくりが落ち着く冬には、素麺づくりも行われてきました。
今回いただいたのは、中垣製麺所の非常に細い素麺。繊細ですが、しっかりとした食感があり、大和茶を使った出汁がよく絡みます。
単に「奈良だから素麺を出す」のではなく、この地域の仕事や季節の営みまで一皿につながっている。こうした背景を知ると、同じ一口でも味わい方が変わります。

一つの鍋で全部煮ない、炊き合わせ
炊き合わせには、栗かぼちゃ、モロッコインゲン、伊賀牛、うなぎ、豆腐などが使われていました。
特徴的なのは、それぞれの食材を一つの鍋でまとめて煮るのではなく、食材ごとに別々に火を入れ、最後に一皿として合わせていること。それぞれの食感や味を残しながら、一つの料理として完成させています。
上には醤油麹。派手な料理ではないのですが、食べ進めるほど丁寧さが分かります。

山添村のわさびから生まれた寿司
山添村では野生のわさびが育ち、地域では「わさびの会」という活動も行われてきました。その土地にあるわさびを、どうすれば料理として生かせるのか。地域の人たちとの関係の中から、わさびを使った寿司も生まれています。
今回の寿司には、中トロ、サーモン、ブリなど。中トロには海苔ポン酢と、山添村のお母さんがつくった青唐辛子入りの柚子胡椒が合わせられていました。
地域の食材だけにこだわって窮屈になるのではなく、外から来た食材にも山添村の味を重ねていく。このバランスも面白いです。

大和肉どり、和風アクアパッツァ、ほうじ茶の海老フライ
大和肉どりは、噛むほどに旨みが出るため、味付けはシンプル。塩と自家製の出汁で素材の味を引き出します。
続いて登場したのは、鯛やあさり、山添村の玉ねぎを使った和風のアクアパッツァ。一般的なアクアパッツァでは白ワインを使いますが、ここでは鰹節を使い、和食として仕上げています。
海老フライの衣には、山添村のほうじ茶。誰もが知っている海老フライに土地の香りが入り、全く違う料理になります。「地域料理」というと昔からある郷土料理を想像しがちですが、umeでは、今この土地にあるものを使って新しい一皿をつくっています。


デザートまで山添村
デザートは、紅はるかとクリームチーズを使ったアイスケーキ。旬の山添村産ブルーベリーと一緒にいただきました。
最後に出てきたのは山添村の和紅茶。緑茶をつくっている茶畑から生まれる紅茶で、柔らかな甘さがあります。
夕食の最初から最後まで食べ終わると、一つのコース料理を食べたというより、山添村を少し歩いたような感覚が残りました。
「ちょっと不自由なホテル」は、広告のための言葉ではなかった
「ちょっと不自由なホテル」。一度聞いたら忘れにくい言葉です。でも今回、梅守さんにインタビューして分かったのは、この言葉が最初から宿を売るためにつくられたコピーではなかったことです。
梅守さんは2016年に山添村へ移住。宿を開業するまでの約2年半、地域の人たちと対話を重ねました。当然、全員が宿を歓迎したわけではありません。
外から人が来れば、ゴミが増えるかもしれない。騒がしくなるかもしれない。特に印象的だったのが、当時90代だった地域の方との話です。
20代だった梅守さんには、「この村を元気にしたい」「未来をつくりたい」という思いがあった。一方、その方には、「残りの人生を静かに暮らしたい」という思いがあった。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではありません。梅守さんは、相手を説得して考えを変えてもらうのではなく、両方の正しさを抱えたまま共存することを選びました。
人と人が一緒に生きる以上、少しずつ不自由さを受け入れる必要がある。そこから「ちょっと不自由なホテル」という考え方が生まれたそうです。
この話を聞いてから宿の中を見ると、「不便を楽しもう」というだけの宿ではないことが分かります。
「優しい宿」を、本当に優しい宿にする
今回のインタビューで、特に心に残った話があります。umeを始めて2年ほど経った頃、梅守さんの中に一つの疑問が生まれたそうです。
「私たちが提供している『優しさ』は、特定の、健常で余裕のある層だけに向けられたものなのか?」
梅守さん自身、重度の精神疾患を抱えるお姉さんと、白血病を患った妹さんがいます。病気や障がいによって、当たり前にあるはずの選択肢を持つこと自体が難しくなることを、家族として身近に見てきたそうです。
そこで始まったのが「HAJIMARI」という取り組みです。障がいや病気などを理由に旅行の機会が限られてきた方とその家族を宿泊へ招待する活動で、Japan Travel Awards 2025でも、この活動が社会に与えている影響が評価されました。
インタビューで梅守さんが話していた言葉が印象に残っています。
「『うちは大丈夫ですよ』と胸を張って言える場所。」
優しい宿というのは、接客が丁寧な宿というだけではない。その言葉を聞いて、umeがつくろうとしている「優しい場所」の意味が少し分かった気がしました。
朝食|蓋を開けた瞬間の「わあ」
ume,yamazoeの朝食で印象的なのが、お櫃の蓋を開ける瞬間です。蓋を開けると、炊きたてのご飯と一緒に湯気が立ち上ります。それだけなのですが、思わず「わあ」と声が出る。
この朝食にも、梅守さんの家族の話がつながっています。白血病を患っていた妹さんが闘病中、「退院したら大阪の串カツを食べに行きたい」と話していたそうです。
その言葉を聞き、梅守さんは「食べる」という行為が、単に栄養を摂ることだけではなく、明日を生きる希望になることがあると感じたと話していました。だから、朝食のお櫃を開ける瞬間にも、小さな喜びをつくる。
umeではこの朝食を「パッカン」と呼んでいます。豪華な演出ではありません。でも、こういう小さな瞬間が不思議と記憶に残ります。

4年前に好きだった理由が、少し分かった
筆者が最初にume,yamazoeを訪れたのは2022年1月。大学時代の友人8人で泊まりました。
サウナに入り、夜はみんなで過ごし、朝日を見て、ご飯を食べる。当時から、とても好きな宿でした。ただ、「なぜそんなに好きなのか」と聞かれたら、うまく説明できなかったと思います。
その後、自分でも宿を運営し、アウトドアサウナをつくり、仕事として日本各地の旅館を見るようになりました。そして4年後、もう一度ここに泊まり、梅守さんや木村さんから話を聞きました。
すると、初めて来た時に感覚的に好きだったものの裏側に、全部理由があったことが分かってきます。
朝日がきれいなのも。薪を大切に使うのも。山添村の食材を食べるのも。少し不自由なのも。そこで働く人たちが温かいのも。
一つ一つが別々のサービスではなく、すべて同じ方向を向いていました。
こんな人におすすめ
ume,yamazoeは、大浴場や豪華な館内設備を次々に楽しむ大型旅館とは、かなり違う宿です。静かな場所でゆっくり過ごしたい方、薪サウナが好きな方、地域の食文化に興味がある方、自然の中で自分のペースを取り戻したい方には、とても相性がいいと思います。
海外旅行者であれば、東京、京都、大阪、奈良公園など、日本の有名観光地をすでに訪れたことがあり、「次はもっと日本の日常に近い場所へ行きたい」という方にもおすすめです。
ume,yamazoeの魅力は、山添村に何か特別な巨大観光資源があることではありません。この土地に昔からある暮らしや食、自然との距離感を丁寧に磨き、それ自体を旅の理由にしていることだと思います。
チェックアウト|また、自分のリズムを確かめに
ume,yamazoeを出る時、「ものすごい観光体験をした」という派手な達成感はあまりありません。
サウナに入った。火を見た。料理を食べた。朝日を見た。やったことだけを並べれば、とてもシンプルです。
でも帰る頃には、少しだけ身体のリズムが変わっています。いつもより早く眠くなったり、朝日で自然に目が覚めたり、火をぼんやり見ている時間が心地よくなったり。
筆者にとってume,yamazoeは、「一度泊まれば分かる宿」というより、何度か戻ることで少しずつ分かってくる宿です。仕事が忙しい時に来るのと、人生の節目に来るのとでは、同じ朝日でも見え方が違う。
何かを足してもらうというより、自分の中にもともとあった感覚を思い出す。
奈良の有名観光地から、もう一歩先へ。山添村で、少しだけ自然の時間に戻ってみてください。
保護中: ume, yamazoe
詳細を見る