インタビュー

【福島・大内宿】300年の歴史を紡ぐ茅葺き屋根と、”福の神”女将が手掛ける郷土の味。民宿「扇屋」が守り続ける、心の故郷

福島県南会津郡下郷町、江戸時代の面影を今に伝える宿場町・大内宿。その美しい町並みの中でも、300年以上の歴史を刻む茅葺き屋根の建物が目を引くのが、民宿「扇屋」です。1981年(昭和56年)の重要伝統的建造物群保存地区への選定をきっかけに始まったこの宿は、40年以上にわたり、訪れる人々を温かい真心で迎え続けてきました。

今回は、大内宿の広告塔としても活躍し、宿泊客から「会うだけで元気がもらえる」と慕われる女将さんに、宿の歩みと料理へのこだわり、そして町への熱い想いについて伺いました。

(左)筆者と(右)女将・浅沼喜恵子さん

福島県南会津・大内宿に佇む「本家扇屋」。囲炉裏で郷土料理を味わい、江戸時代に迷い込んだような体験が魅力。

築300年の重みと、保存地区選定から始まった民宿の歩み

ーーまず、扇屋さんの成り立ちについて教えてください。

女将: 私は19歳でここに嫁いできたのですが、当時は兼業農家で、民宿をやるなんて考えてもいませんでした。転機は昭和56年にこの地区が保存選定を受けたことです。観光客の方が増える中で、もともと掃除や料理、そして何より「人が大好き」だったものですから、主人を説得して家を大改造し、民宿を始めました。

ーーこの建物自体、非常に歴史があるものだと伺いました。

女将: はい、建物自体は300年以上経っています。大内宿を維持するのは大変なことで、特にこの茅葺き屋根を守るためには、村の若い人たちが自ら職人となって技術を継承しています。自分たちの店をやりながらも村を守ろうとする彼らの犠牲と努力には、本当に感謝しかありません。

「ただいま」と言いたくなる、10数品の手作り郷土料理

ーー扇屋さんのお料理を楽しみにされている常連さんも多いそうですね。

女将: うちは地元で採れたもの、ここでしか食べられないものを、すべて手作りで提供することにこだわっています。既製品は一切使いません。岩魚の塩焼き、山菜料理、馬刺し、会津の伝統料理である「こづゆ」など、10数品が並びます。お客様が席に着いた途端、「わあーっ!」と声を上げて喜んでくださるのが何よりの励みです。

ーー「実家に帰ってきたような感覚」になるお客様も多いとか。

女将: そうなんです。「ただいま」って帰ってきてくださるリピーターさんが一番多いんですよ。今は娘が料理を引き継いで一生懸命やってくれているので、私はアドバイスをしたり、ご飯を食べている間にお客様と大内宿の歴史を話したりするのが役目です。海外からのお客様も「美味しい!」と喜んでくださいますね。

「袋神(福の神)」と呼ばれる女将が願う、村全体の幸せ

ーー女将さんはメディアにも多く出演されており、有名人ですよね。

女将: ありがたいことに、テレビやCMにも出させていただいています。お客様からは「女将さんに会って喋ると元気をもらえる」「幸せになれる」と言っていただけて、私のことを「袋神(福の神)」なんて呼んでくれる方もいるんですよ。でも、私が表に出るのは自分のためではなく、すべては大内宿の宣伝のためなんです。

ーー村への愛が伝わってきます。

女将: この村はかつて、街道が通らなくなってから本当に貧しい時期を過ごしました。だからこそ、人を迎える「おもてなしの心」が育まれたのだと思います。私一人が良くなればいいなんて気持ちはさらさらありません。大内宿の48世帯みんなが笑顔で暮らせるようにしたい、ここに来て「癒された」と言ってもらいたい、その一心で続けています。

ーー最後に、これからお越しになる方へメッセージをお願いします。

女将: 大内宿は四季折々、どこを見ても宝物のような風景が広がっています。昼間のにぎわいも良いですが、夜の静かな風景や、澄んだ空気は泊まった人だけが味わえる特権です。全国の皆さん、ぜひ大内宿に来てください。そして、うちに来たら気軽に声をかけてくださいね。

築300年の重厚な梁の下、囲炉裏を囲んで交わされる温かな会話。扇屋には、都会では決して味わえない「本物の日本のふるさと」がありました。女将さんの屈託のない笑顔と、手間暇惜しまず作られた手料理は、訪れる人の心を解きほぐし、明日への活力を与えてくれることでしょう。